マチナカ観光・芸術の秋、米坂ヒデノリさんの軌跡を探して
釧路生まれの彫刻家で、釧新郷土芸術賞受賞者の米坂ヒデノリさんの没後10年展が10月3日から12月13日まで、道立釧路芸術館で開かれている。
北海道を代表する第一線の芸術家として活躍するとともに、郷土愛あふれる好々爺でもあった。
芸術の秋を楽しみ、在りし日の面影と思い出を探しに、まちに出掛けた。
トッカリさん
20年前、取材をきっかけに親しくなり、ギャラリーに出入りするようになった。
ある日、記者ににこやかに提案してきた。「山本さんは孫より若い世代ですよね。わたしの子どもの頃のあだ名だった『トッカリ』と呼んで」と。
トッカリはアイヌ語でアザラシを意味するが、本人も「よく似ている」と自負していた。
以来、取材ではなく雑談をする際には、トッカリさんと声を掛けた。話が弾んだ気がしたのが懐かしい。
まちなかに息づく作品
10月7日、晴れ。正午の気温は18度。
釧路市在住の筆者の友人で、お絵描き上手のDOKUさんと南大通5の啄木ゆめ公園で待ち合わせをする。
トッカリさんの屋外展示を鑑賞しながらマチナカ観光をし、道立釧路芸術館(幸町4)で、観覧無料で開かれている「没後10年 米坂ヒデノリ展」にひたる。
DOKUさんは「いよいよ『啄木歌碑巡り』だと確信していたが、いい意味で裏切られた」とにっこり。
一方で「正直、全く存じ上げません。きっと、多くの『ごめの目』読者もそうなのでは」と。
道すがら、トッカリさんの略歴を紹介しよう。
米坂ヒデノリさんは1934年、釧路市に生まれた。
釧路江南高校在学中から全道展に絵画を出品する。東京藝術大学に進学し、彫刻を学んだ。
1957年に帰して木彫制作に取り組み、自由美術展や個展などで作品を発表しながら、釧路聾学校や釧路湖陵高校、釧路短期大学でも教鞭を執った。
1987年から20年間、空知管内栗山町で暮らした後、2006年から再び釧路市を拠点とした。
2005年に北海道文化賞、釧新郷土芸術賞特別賞を受賞。2009年に北海道功労賞に輝いた。
生涯を通じて地域の芸術振興、後進の育成に力を尽くした。2016年、82歳で亡くなった。
代表作は、1974年に制作した最高裁判所大ホール正面にあるレリーフ。50年以上前の作品だが、荘厳さと柔らかさを併せ持った意匠はいつまでも変わらない。
北海道の風土を題材にした作品も多く、道内の美術館や公共施設などに設置、展示されている。
長い前置きを経て、歩き出すこと3分。南大通3の旧南大通ギャラリー前に着いた。
歩道に沿って、3体の彫刻が並んでいる。
「母と子」「防雪林」「送り火」。
いずれも、北の大地に生きる人々の思いや願い、叫びが詰まっているように見える。

「3体が並んでいるのが面白い。昨年、南大通ギャラリーは閉館してしまいました。このまま、地域のシンボルであってほしいですね」とDOKUさん。たしかに、今後の動向が気になるところである。
幣舞橋に差し掛かったところで「ここにもトッカリさんの作品があります」と立ち止まった。
DOKUさんは「クイズですか?四季の像は違うでしょう」と怪訝そうな表情。そんなDOKUさんを横目に高欄を指さした。
「ずらっと咲く、花の模様がトッカリさんのデザインです」。

作品名は「ハマナスの道」という。「みなと釧路は日本一」を思い起こさせる舵輪の中央に、北国を代表するハマナスがあしらわれている。
1976年の5代目幣舞橋の完成時から、転落防止用の柵として市民や観光客の往来を見守っている。
DOKUさんは「この高欄がなければ、夕日の魅力も引き出せないでしょう」と絶賛した。
トッカリさんの作品は身近な場所にある。
道立釧路芸術館には、リバーサイドではなく国道38号を通って遠回りして向かうと決めていた。
再び、疑問符を浮かべるDOKUさんを連れて、釧路市役所に立ち寄った。
前庭の落ち葉が敷き詰められた一画に、台座を含めて1㍍ほどの作品がある。2009年制作の「啓示」で、ノアの方舟を主題とした創作である。
DOKUさんは「庁舎から少し離れているが、まさかこんなところに作品があったとは」と驚きを隠さない。
厳かな雰囲気に敬意を表し、手を合わせた。

芸術館で触れる思索の造形
南大通から1.7㌔の距離を歩くこと50分。ようやく目的地の道立釧路芸術館に到着した。
トッカリさんの予習は十分。満を持して「没後10年 米坂ヒデノリ展」に入った。
芸術館のコレクションを中心に10点を展示している。
炭鉱事故による多数の犠牲者を悼む「殉難」(制作年1960年)、故郷への愛着がにじみ出ている「港町」(制作年1984年)、ロウ型鋳造の技法による「頌韻(しょういん) 三管編成オーケストラ」(同1997年)など、思索的な造形世界が広がる。
齊藤千鶴子学芸主幹は「釧路に縁の深い芸術家の作品から、きっと何かを感じられるのでは」と来館を呼び掛けている。
芸術館では10月17日と11月28日に、学芸員によるギャラリーツアーを行う。いずれも午後2時30分から。


没後10年 米坂ヒデノリ展で展示中(作画DOKUさん、撮影山本雅之)
次の作品巡りへ?
この日のマチナカ観光を終えて、北大通11のセレクトショップ2階に構えるANAVRIN Cafe(アナヴリン カフェ)でコーヒータイムとした。
「約3時間で、一人の人物をこれだけ掘り下げたことはない」と笑顔のDOKUさん。
「幣舞橋の高欄も、市役所前庭の立像も、道立釧路芸術館の展示も。どれもこれも驚きの連続だった」と感想を述べた。
恒例の振り返りの作画は、トッカリさんが制作に20年以上を費やしたというオーケストラに決め「偉大な巨匠の作品の描写。ただのスケッチというわけにはいきません。このオーケストラに、どんな曲を演奏させたかったのかな、と想像を巡らします」と語った。
一息ついて「ひとつ、気になったことがあるんです」とDOKUさん。
展示会場で、米坂ヒデノリ作品・モニュメントなどのおもな所在地の一覧が掲示されていた、と指摘した。
「釧路市はもちろん、釧路、根室管内にもかなりあるみたいです。今度、遠出したら、鑑賞したいですね」。
釧根にある作品群の制覇。図らずも、トッカリさんから宿題を出されたようだ。もう、気になって仕方がない。
(編集部:山本雅之)

道立釧路芸術館
▽開館時間 9:30~17:00
▽休館日 月曜日ほか
▽住所 釧路市幸町4-1-5
▽電話番号 0154-23-2381
詳細はこちらから!
12月13日まで「三岸好太郎展 好太郎の世界とその軌跡」を開催中。
観覧料は一般1000円、高大生600円、小中生300円
ANAVRIN Cafe(アナヴリン カフェ)
▽営業時間
平日▶11:00~19:00
土、日曜、祝日▶10:30~18:00
▽定休日 水曜日
▽住所 釧路市北大通11-2-3
▽電話番号 0154-35-2516
詳細はこちらから!
フィールドデータ
▽道程
啄木ゆめ公園→幣舞橋→釧路市役所前庭→道立釧路芸術館→ANAVRIN Cafe
▽距離 約2.5㌔
▽所要時間 約3時間




