その他 編集部コラム
公開:2026/08/24

編集部コラム「バナナ饅頭の思い出」

小さい頃においしかったものとは、大人になってから記憶が補正され、懐かしくごちそうのように思えることがある。

詳細は隠すが、両親は昔ステーションデパートのとあるテナント店で商売をしていた。列車を待つ常連客から土産菓子なんかをもらうことが多く、おこぼれに預かることが小さい頃の楽しみだった。

中でも強烈に記憶に残っているのはバナナ饅頭である。
池田町の名物で釧路の菓子ではないのだが、どうやら昔から道東圏で広く普及しているらしい。

このバナナ饅頭が仕事から帰って来た父の手荷物の中から見えることの、なんてうれしかったことか。もちろん味も好きだったが、子どもにとってはもっと重要な理由があったのである。
小ぶりなバナナ饅頭はひとつを全部食べることが許される貴重な菓子だったのだ。食べたい盛りにこの喜びは大きい。

もうひとつの思い出は、札幌へ向かう特急おおぞらの車内販売である。池田町を過ぎると必ず、バナナ饅頭を仕入れたのでぜひどうぞというアナウンスがあった。買ったことはないが、バナナ饅頭とはこうもメジャーなお菓子だったのかと感心した覚えがある。
その車内販売もサービスが終了して10年が経つ。外国人観光客などほぼおらず、見知らぬ隣の乗客が四つ葉のアイスクリームをおごってくれるいい時代だった。

そうして時は経ち、時代は流れ、世の中のおいしいものをたくさん知り、SNSがまき散らす世相に踊らされているうちに、バナナ饅頭のこともすっかり忘れてしまっていた。
ところが先日コンビニで「朝食バナナカステラ」なるものを見かけた時に、切断されていた記憶の回路がバッチーン!と接続されてしまったのである。コンビニで何を買うんだったのかも忘れ、脳内一面がバナナ饅頭で埋め尽くされた。
思い出してしまったらもう気になって仕方がない。釧路駅に走るしかない。そうか、釧路駅に寄る機会もめっきり減ったからバナナ饅頭を忘れるスピードも速かったのか。どうやら釧路駅のキオスク(現・北海道四季彩館)でしか取り扱いがないのは今も昔も変わらないようである。

箱を開けるとふわっとバナナの香りがした。これこれ、これだよ!と懐かしくなってさっそくひとつを食べた。
モソモソして甘くて、記憶と同じ味。

あれ、こんなもんだっけ。

間違いなくバナナ饅頭なのだが、子どもの頃に味わった感動までは付いてこなかった。あれ、おかしいな。

拍子抜けの原因には、うすうす気が付いている。
父が手土産に持ってきたお菓子だったからおいしかったのだ。時を超えて同じバナナ饅頭を手にしていても、そこに幼少期と同じ環境はない。難なく自分の財布から出すお金で買うことができ、1つどころか食べたいだけいくらでも食べてもいい状況であり、当時を回顧して思い出話ができる人もおらず1人でぽつんと食べている。そりゃ味気がない。

残りは家族への手土産にしようと持って帰った。母に渡すと「あらどうも」と一言あっただけでそのままテーブルの上に放置された。
懐かしいの「な」の句も出なかった。
ドラマティックなバナナ饅頭の思い出やエピソードを抱えていたのは、どうやら自分1人だったらしい。

温度差に愕然として翌日にまだ残っているバナナ饅頭を1つ食べた。乾燥が始まりモソモソがパサパサになった饅頭はそれでも甘くおいしかった。(ごめのすけ)

いつまでも残ってほしい。そしていつか本家のよねくらに行ってみたい
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