特集記事 レトロなお惣菜
公開:2026/06/19 更新:2026/08/10

まるでフレンチな一皿?・レトロなお惣菜 第4回「初夏のシチュー」

70年前の釧路新聞連載「今晩のお惣菜」のレシピを再現するこの企画、4回目のレシピは「初夏のシチュー」。

1956(昭和31)年6月3日の釧路新聞2面より切り抜き

「初夏のシチュー」―。メニュー名からして、旬の夏野菜が踊る爽やかなクリームシチューを想像するじゃないか。意気揚々とレシピを紐解いた私が甘かった。

「牛肉をぶつ切りにしラードで表面を焼き」「玉ねぎとにんじんを輪切りにして炒め」(中略)「かぶを丸ごと入れて」「ケチヤツプ大さじ1杯を入れ」「臭みが立たなくなるまで煮る」

……。え、これ味するの?

正直、おいしそうな要素があまり感じられな… いやいや、おいしいはずだ。じっくり煮込んだ旬の野菜の旨味が溶け出した、コク深い逸品に違いない。そう言い聞かせ、一抹の不安を喉の奥に押し込んで調理開始。

もしおいしかったら、数少ないわが家のレパートリーに昇格させてやろうではないか。

さっそく食材チョイスをミスった

さっそくスーパーで材料を調達してきた。レシピには5人前とあるが、3人前で十分だろう。

牛肉は売り場で一番安いバラ肉切り落とし。しかし「臭みが強くて余計にマズくなったらどうしよう」と買った後に少し後悔。海外の安い牛肉の「臭みガチャ」なんとかならんものか。

スーパーにはアスパラやパプリカ、ほうれん草など旬の野菜が並び、つい手が伸びそうになる。

レシピでもご丁寧に「旬とそうじゃないものをうまく組み合わせて」と助言してくれている。が、いかんせん「完成品」の絵面が全く浮かばないので、無難にレシピ通りの食材をカゴに放り込む。

…と、ここでいきなり失態に気づく。一番安い牛バラ肉の切り落としを買ってみたものの、よく読むと「牛並肉七十五匁をぶつ切りにし」(中略)「ラードで表面を強火で焼き」とある。

ぶつ切り?表面を強火で焼く?これ、どう見てもブロック肉のことですやん。

「七十五匁」の表記にニヤついている場合ではなかった。

仕方がないので切り落とし肉に小麦粉をまぶして炒めるしかない。
ラードはサラダ油で代用。このまま牛丼に変更してもいいですか
「ベーコンうす切一枚を五つ位に切って」とあるが、どう考えてもベーコンだけ少なすぎないか。「ひとり1切れずつ、仲良く分けましょう」ということなのか。
玉ネギの輪切りはBBQ以外でやったことがない。ニンジンの輪切りも太さが分からず、とりあえず1cmくらいにした。結構太い。

輪切りにした玉ネギとニンジン、そしてペラペラに5等分されたベーコンを一緒に炒める。

牛肉と野菜たちをひとつの鍋に合わせた

香りは悪くない。カレーや肉じゃがを作る工程でおなじみの、あの香りである。

ここで材料がかぶるくらい水を足して火にかけ、30分ほど煮込む。

煮込んで煮込んで、ひたすら煮込んで…

ここから先は、ひたすら煮込む作業である。

「ちょっと切り方を間違えちゃったカレー」の工程に見える

途中でアクを取りながら、レシピ通り30分煮込んでみた。が、玉ねぎとベーコンが既にトロトロだ。

スープを味見すると、牛肉の旨味と野菜の甘みが溶け込み、意外とおいしい。…シチューというよりスープだが、ここまでは順調だ。

だが、不穏なのはここからである。

「三つ切にしたじゃがいもを入れて10分、カブを丸ごと入れて10分煮る」

!!??

今からじゃがいも?タイミング合ってる?10分で火が通るのか?カブも丸ごと?

先に十分煮込まれた野菜や肉たちは、これ以上煮込んだらデロンデロンの液体になってしまうのでは…。

しかも、今の時点ですでにスープの量が少なくなっているのに、ここからさにじゃがいもとカブ丸ごと3個投入…いや定員オーバーすぎないか?

いろいろとツッコミどころ満載だが、もうこのレシピを選んだ時点でいろいろと困難は想定できたことだ。そして昭和の台所を再現する醍醐味は、こういう予測不能で奇想天外な出来事を噛みしめることなのだろう。だからどこまでもレシピに従う。決してヤケクソではない。

じゃがいもを入れてギュウギュウ状態。

ここから先は、再びひたすらコトコトと煮込み作業。退屈なのでレシピをあらためて読んでみた。

すると新たな事実に気づく。

「ふたつきなべに移す」

「ふたつきなべにあける」

ふたつきなべ?

…全く蓋をせずに煮込んでしまっていた。

というか、蓋をして煮込むという発想すらなかった。え、煮物は蓋をするのがジョーシキですか?急いでいるときや、火が通りにくい食材をじっくり煮込むとき以外は蓋をすることがない私。(どなたか料理が得意な人、教えて!)

とりあえず一応蓋をしておこう(もう遅い)。

さて10分たった。じゃがいもに菜箸が刺さる気配はない。やはり蓋をするべきだったか?時短のため強制的にカブも投入してみる。

「カブ入りの肉じゃが」を作っている覚えはない。そしてカブが全然スープに浸ってない。

合っているのか?いかんせん正解が分からない。

一旦、味見をしてみよう。

想像以上に濃いスープが出来上がっている。トロントロンに消えかかっている玉ネギも切ない。玉ネギよ、息してるか?これ以上カブと煮込んだら、鍋の中は混沌の極みだ。

さすがにこれはもう、テコ入れをしないとお腹が危険である。

ここは潔く水を足すことに。

水を加えて味見をすると、やはりコクがかなり薄まってしまった。ブイヨンでも加えて味を調えておきたい。

…と思ったらブイヨンを切らしていて、なぜかコンソメのストックが二つあった。おそらくスーパーで買い間違えたのだろう。われながら残念な主婦である。

仕方がないのでコンソメを投下。うん、少し味がしまったかな…。でもチキンスープっぽくなってしまった。が、正解が不明なので「これはこれで良し」とする。

10分経過したのでカブに竹串を刺してみるも、やはりスッと入らず。もう少し煮込んでみるしかない。

トータルで1時間以上煮込んでいるが、牛バラはいい感じにヨレヨレだ。本来のブロック肉なら今ごろ良い仕事をしていただろうに…。

ここで塩コショウを振り、トマトケチャップ大さじ1を投入とある。

作る前は「たったの大さじ1?」「味するの?」と不安しかなかったが、実際は意外と理にかなっているのかもしれない…と思いきや、口に広がるのは正体不明の野菜の雑味と、申し訳程度のケチャップの酸味。

煮込みすぎたせいでコクとうま味が雑味に変わってしまったようだ。料理とはかくも奥が深いものなのか。

ここはケチャップを足すべきか、コンソメを足すべきか…?料理上手の人なら「あれを足そう」とピンとくるのだろうか。残念ながら二択しか浮かばない(あぁ、ブイヨンさえあれば…)。

結局コンソメとケチャップを両方足してみることにした。もちろん味を見ながら。あれ、シチューってこんなに味見しながら作るものだっけ?

味見をしているうちに、よう分からなくなってきた(味見あるある)。もう仕上げにバターで炒めたカブの葉を添える。

いよいよ終わりが見えてきた…という安堵感と、バターの香りに心底ほっとした瞬間

見た目はフレンチコースの一皿?味は…

紆余曲折あったが、なんとか完成。

おまたせしました。こちらシェフの本日のおすすめ

「じっくり煮込んだ牛肉と丸ごとカブのブレゼ ~初夏野菜と完熟トマト仕立て~」でございます。

1時間以上煮込んだ牛バラ肉と玉ネギのフニャッとした食感、大胆に丸ごと投入したカブがポイントで、トマトケチャップと隠し味のコンソメ風味とよく合います。

………。

いや、見た目だけは「フレンチコースの一皿やん!」と嬉しくなったのは事実。

しかし口にしてみると、いたって庶民的な「ケチャップコンソメスープ」なのである。もしくはミネストローネの親戚。

溶け去った玉ネギはもはや謎の物体。だが丸ごとのカブは意外と健闘していて、ケチャップ×コンソメの王道スープに合っている。カブと言えば浅漬けか味噌汁しか思いつかなかったが、これからはカブのレパートリーとして…いや、ないか。

そして食べ進めるうちに底をつくコクと深み。所詮は(と言っては失礼だが)ただのケチャップとコンソメで味をつけた程度のメニューである。やはり野菜のコクがもう少しほしいところだ(ブイヨンがあれば違ったかも)

とはいえ、最初の「おいしくなさそう」という予感に比べれば「意外とイケる」というのが正直な総評だ。ただ、正解の味が分からない

…目をつぶって70年前の食卓を想像してみた。これを囲んで家族が「ハイカラだね」とカブを頬張る姿。なんともほっこりとした気分になる。これもレトロ総菜再現の醍醐味なのだろう。皆さんもぜひ、70年前の食卓に思いを馳せながら読んでもらえると幸いです。(ライター:エリ子)

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