「アリゾナ感」とはなんぞや? レトロなお惣菜 第8回「アリゾナ・ステーキ」
さあさあ、ごめのすけ氏と私エリ子の「料理失敗顛末記」コーナーの時間がやってまいりました!今回はどんなメニューに挑戦し、そしてどんな敗北を味わうのでしょうか…?
いや本当、昭和レトロなお惣菜が令和の食卓に蘇る!…はずが、何かしらの事件が起こり、毎度てんやわんやである。
ごめのすけ氏は比較的難易度の高いレシピに挑んでおられるが、こちとらニンジンを竹のように縦にパッカーンと割って周囲を凍り付かせるほどの腕前。70年前のレシピをそれっぽく再現できただけで「たいへんよくできました」なのである。あぁ、料理下手をカミングアウトしてしまった。
そんなわけで私が選ぶ再現レシピは、なるべく工程の少ない、それでいて謎めいて、なおかつ美味しそうなもの…と、なるにはなる。
そこで「アリゾナ・ステーキ」である。

まずは6行も使って描写した西部劇のシーンをご覧あれ。なんだか分からないがアリゾナステーキがとんでもないご馳走に思えてくる。まさに掴みはオッケー。
さて、アリゾナ・ステーキ。
聞いたことあるだろうか?私は初めて耳にした。西部劇でよく食べているあのステーキの通称だろうか?
(余談だが「アリゾナだっけ?アゾリナだっけ?」と原稿を打つたびにややこしくて困る)
とりあえずネット検索。
「豚肉などの薄切り肉を、ケチャップや醤油、ニンニクなどを合わせた特製ソースに漬け込んでから焼き上げた料理です」
ほう。続けてこう書かれている。
「日本の学校給食のメニューとして、広く親しまれているポークステーキの一種です」
学校給食!? 「今日の給食はアリゾナステーキだね」なんて会話をした記憶は一切ない。現代の給食では出ているのだろうかと思い、小学生の姪に聞いてみるも「聞いたことがない」との返答だった。釧路以外の給食ではお馴染みの1品なのであろうか?
さらにネットには「アメリカのアリゾナ州にちなんだ名前だが、現地のアリゾナの伝統料理というわけではなく、日本国内で考案されたメニュー的な位置づけの料理」とある。
なるほど、そういうことか。(いやどういうことだ?)とりあえず<西部劇好きの勇ましい奥さま>になり切って、アリゾナステーキとやらを作ってみよう。
半額のブロック肉で下準備
材料はこれだけである。(調味料は除く)

ネットの情報では「ポークステーキの一種」とあったが、レシピでは「牛並肉」とある。まぁ、牛のほうがアリゾナ感は出る気もする。
「1人前20匁(もんめ)くらいに薄く切る」。出ました「匁」!(ちなみに 1匁=3.75gである。「みんなゴー」と覚えよう)
20匁(75g)を「薄く切る」とあるが、もっと豪快にドドンと丸ごとこんがり焼く方がアリゾナ感が出るのではないか、と強く思いつつ、早速切ってみよう。

もっと「ステーキ用」と書かれた分かりやすい肉を買えばよかった。牛モモ肉かたまりなんて上級者が使う食材やん…
私の料理の腕前でどう切るのが正解だろうか?とりあえずそれっぽく切ってみよう。


というか、そもそも牛モモのかたまり肉はステーキに適しているのだろうか?
脂身が少なくヘルシーなイメージはあるが、弾力があって噛み応えがある(=噛み切れにくい)イメージもある。
……。
もう嫌な予感しかしないのだが、ここは下ごしらえと焼き方次第で柔らかいステーキになるだろう。そんな技術を持ち合わせているかはさておき。
案の定(?)、レシピには「筋切り」や「肉を叩く」といった工程は書かれていないが、一応叩いておくことにする。余談だが、昔居酒屋の仕込みのバイトしていたときはとんかつ用の肉を叩く専門員だった(それ以外では使い物にならなかった)。
どうせなら丸ごと豪快に焼いてみたいが、とりあえずレシピに従い「廿匁」にカット。ちょうど3等分になった。
謎配分の調味料を擦り込み4~5時間漬ける
原稿を書きながら気づいたが、まだ肉をカットし終えた段階なのにすでに文章が長い!「西部劇シーンに6行も使っている」とか笑っている場合ではない。こちとら肉のカットシーンに100行だ。
ここからは駆け足でレポートしていく(…なるべく)。

次はタレの準備だ。「ニンニクをすりつぶし」とあるが、ニンニクの分量が書かれていない。どれくらい使うか分からないが、ここはアリゾナの名に従って豪快にガッツリ臭く仕上げてみようか。
というわけで、ニンニクは2片使わせてもらう。
すり潰した(潰してみじん切りした)ニンニクに、一味唐辛子を追加。 サラダ油は「肉5切れで大さじ4杯」とあるが…大さじ4杯?かなりの量だ。それに対してケチャップは大さじ1。…すでに不安しかない。
と、ここで恐ろしい事実に気づく。 「肉に揉み込み、4〜5時間つけておく」
え、そんなに漬けるの?夕飯に出そうと思っていたのに、夜食になってしまう!
しかし冷静に考えたら、肉に調味料をもみ込んで数時間漬け込む工程はよくあること。この発想が抜け落ちていた私がいかに普段、手間のかかる料理を作っていないかがバレる瞬間である。
とりあえず4~5時間→2時間に短縮して様子を見ることにした…。


ちなみにポテトは冷凍食品である!(ドヤ)
柔らかく焼けるかな
レシピを読み進めてみると、どうやら肉を焼いた後に「漬け汁を再利用する」という工程が出てくる。え?漬け汁?すでに肉に吸われてしまって、残量ゼロに見えるのだが。
まあ深く考えるのはよそう。とにかく焼いてみる。

「アリゾナステーキ」という名前から、強火でガーッと豪快に焼き上げるのだろうと思っていたが、「8分ぐらい、両面に色がつくほど焼く」という極めてシンプルな焼き方だった。特に蓋をするだの、アルミホイルで包むだのとは書かれていない。
ただ、脂身の少ないモモのかたまり肉なので、焼き方を間違えると罰ゲームのような仕上がりになる。ここは表面を強火で焼き色をつけた後、蓋をして弱火でじっくり焼き、そのあとアルミホイルで少し包んでおこう。
(ちなみにネットによるとアルミホイルが日本の台所で普及したのは1958年。レシピ連載時にはまだ登場していないようだ)

「8分焼く」とあるが、中火で30秒焼いた時点ですでにかなりの焼き色が付いている。
そしてこの絵面からどこらへんに「アリゾナ」要素があるのかさっぱり分からない。が、普通に美味しそうではある。
ここで、その先のレシピを読んでみる。
「肉を取り出した後に洋酒(日本酒でも)を少し垂らし、漬け汁と水少量を加え、ピーマンを小さく角切りにして加え、塩味を整えていもと肉の上にかける」
ここで漬け汁を再利用ときた。が、漬け汁なんて残っていない。
「肉を取り出した後に少し垂らす」ということは、皿に盛った後の肉にかけるという意味だろうか?生肉を漬けていた汁を?衛生面的に大丈夫?さっぱり意味が分からないのだが、料理上手な人はピンとくるのだろうか。まぁ心配したところで漬け汁は残っていないのだが。

弱火でじっくりと焼いているうちに、結構な脂や肉汁が出てきた。 「この肉汁をそのまま上にかければよくね?」という結論に達し、料理酒を少し垂らし、塩で味を整えてみよう(肉を取り出した後に酒をそのまま垂らしたらアルコールが飛ばないのでは?もう訳が分からん…)
ピーマンは付け合わせじゃなかった
一応、焼き上がった。皿に盛りつけて、あらかじめ揚げておいたピーマンとポテトを付け合わせ…
ん??
肉汁ソースを作り、ピーマンも小さく角切りにして加え、いもと肉の上にかける…。 ん??
ピーマンは付け合わせではなく、生のまま刻んでソースの上にかけるのか!なんと。(レシピはしっかり読みましょう)

生ピーマンを刻んで乗せ直し、完成図のやり直しである。

うーん、ニンニク臭がとにかくすごい。ネットには「ポークチャップ風」と書いてあったが、ケチャップ感は完全に消し去られている。
さて、食感はいかに。

肉は最初に常温でしっかり戻したし、筋切りもしたし、アルミホイルに包んだし…やれることはやった気がするのだが。半額のあやしい肉だったのが敗因か?
食べてみると、やはり脂身が少ない分、ヘルシーな感じはある。しかし噛み応えがものすごく、柔らかい口溶けとは程遠い。このワイルドな弾力と噛み応えにだけ、唯一「アリゾナらしさ(野生味?)」を感じたが…。
味はニンニクが強すぎて、ケチャップや唐辛子の味は全くしない。もう少しケチャップ感があればポークチャップっぽくて美味しい気もするのだが。
今回の敗因はいろいろあるが、ステーキは素材の質が命だということはよく分かった。(ライター:エリ子)
<おまけ1>
ネットで見つけた「料理下手な人向けのさしすせそ」
「さ」:逆らうな。レシピ通り作れ。
「し」:省略するな。レシピ通り作れ。
「す」:好き嫌いするな。レシピ通り作れ。
「せ」:センスに頼るな。レシピ通り作れ。
「そ」:そのままで良いんだ。レシピ通り作れ。
<おまけ2>
AIにレシピを読ませて「どんな料理か作ってみて」と言ったらコレが出てきた。西部劇シーンの再現まで頼んだ覚えはない。





