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公開:2026/06/24 更新:2026/07/06

「防災士×防災士記者」①工藤直弘さん【続・釧根防災チャンネル】

災害時の人間の心理

防災士は、災害発生時には被害を最小限に抑えるリーダーとして、平時には防災意識の普及啓発などに携わる専門家として、家族や地域、職場で中心的な役割を担う。多くの防災士が本業に従事しながら、得意分野を生かした活動を展開。釧路新聞社に勤務する山本雅之も“防災士記者”として日々、釧路新聞の紙面で、防災にまつわる話題を読者に届けてきた。

「続・釧根防災チャンネル」では、地域に根ざした防災士が登場。それぞれの知識と経験を掛け合わせて、釧路、根室の実情を踏まえた防災・減災について教示する。

今回お話を聞いたのは工藤直弘さん。

▽略歴
 くどう なおひろ 元陸上自衛官で、災害時における迅速な対処や生活支援に精通。企業のBCP(事業継続計画)の作成も手掛けている。

なぜ人は焦るのか

山本 「防災士×防災士記者」の初回は、災害時の人間心理について、元陸上自衛官で、平時の備えから有事の対応まで、幅広く詳しい工藤直弘さんと考えていきます。
そもそも、人間はなぜ焦るのでしょうか。

工藤 災害発生時、日常生活が困難、または不可能な状況に陥ると、人間は平常心を保てなくなります。大地震や大津波など、規模が大きくなればなるほど、焦りも大きくなります。生き残るための本能が暴走すると言えば分かりやすいかもしれません。

山本 「本能が暴走する」というのは穏やかではないですね。

工藤 人間にとって最大の恐怖は、大きな災害によって何が起こっているのか、状況が分からないことです。脳は「生き残れ」「すぐ動け」といった命令を発します。本能として、止まることは死を意味します。結果として、走る、叫ぶ、物を探す、外へ飛び出す、といった場当たり的な対応、危険を誘発する行動をしてしまいます。また、本能として全部守ろうとするため、物事を取捨選択できず、混乱してしまいます。

胆振東部地震でブラックアウトが発生した2日後の炊き出し。長蛇の列ができた(2018年9月8日、釧路市内)

山本 大きな災害が発生した場合、人間の心理は崩壊してしまうんですね。

工藤 大地震の発生、大津波の襲来は、人間の心理を極限状態に追い込みます。「恐くて動けなかったら」「家族を守れなかったら」「判断を間違ったら」など、どんどん悪い方、悪い方へ考えてしまう傾向が強まります。一方で、普段の自分でいられなくなり、何とかして生き延びるという“生存モード”へ切り替わってしまいます。

山本 「普段の自分でいられなくなる」とはどういうことでしょうか。

工藤 大きく5つです。まず、判断力の低下です。大量の情報を処理しきれなくなります。次いで、正常性バイアスの影響です。異常な事態に直面した際、警報が出ても逃げない、根拠なく「自分は大丈夫」と思い、避難を後回しにしてしまいます。認識をゆがめて、正常の範囲内だと判断してしまう心理メカニズムです。
三つ目は集団心理によって、周囲を見て行動してしまう。四つ目は暗闇と沈黙の恐怖で、見えない、分からない状況は人間の心理を崩壊させます。五つ目は大切なものに執着することで、住宅や写真、通帳、車両、ペットにとらわれると、避難が遅れてしまいます。

「くしろ冬まつり」での防災コーナー。ブレーカーの仕組みについて理解

どんな状況にも適応できる人が生き残る

山本 生き残る人には、特徴や傾向はありますか。

工藤 強い人や冷静な人ではなく、いかなる状況にも適応できる人です。身体能力は無関係。大きな災害が発生して、しかるべき行動を起こし、実行できる人です。

山本 災害時、人間は物不足より、心理的に追い詰められたら「止まる」のですね。

工藤 陸上自衛隊の訓練を通じて実感したこととして、野外で人間の行動意欲を阻害するものを列挙します。

①恐怖・不安
②寒さ・暑さ
③疲労
④水不足
⑤暗闇(見えないこと)
⑥孤独
⑦衣服の濡れ
⑧空腹
⑨情報不足
⑩痛み
⑪恥・遠慮
⑫臭い・異音

工藤 個人的には、衣服が濡れることは、体温の低下を招き、不快感や疲労感を増幅させ、気力も削ぐので、最も嫌です。何が嫌か、苦手かは一人一人で違いますが、事前に複数の要因を知っておくと、万一の時、優先順位を付けて、適切に行動できます。命の危険が迫って避難する際、物より心が大事です。できるだけ気持ちを落ち着かせることを忘れないでください。もちろん、備蓄品が充実していることは、心の安定をもたらします。日頃からの備えも続けていきましょう。
(防災士記者、山本雅之)


まとめ

  • ▽災害時の焦りは、日常生活が困難、または、不可能な状況に陥ると、平常心を保てなくなることに由来する。生き残るための「本能が暴走する」とも言える。
  • ▽災害時、普段の自分でなくなると、日頃、物事を自分で即断即決できる人でも、混乱してしまう。
  • ▽災害時、野外で人間の行動意欲を阻害するものは複数ある。事前に把握しておくことで、有事の際に、気持ちを落ち着かせる効果が期待できる。

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